この夏は京扇子でしなやかに乗りきろう   江戸時代からつづく銘店で選ぶ、持ち歩ける伝統工芸品

この夏は京扇子でしなやかに乗りきろう  江戸時代からつづく銘店で選ぶ、持ち歩ける伝統工芸品

冨岡 ちづこ

21.07.17

冨岡 ちづこ

京都の人にもあまり知られていませんが、市内を流れる鴨川にかかる五条大橋の西詰に「扇塚」という史跡があります。かつてこのあたりに御影堂という時宗のお寺があり、平安時代初期にそこで作られた扇が有名になり、界隈に扇屋が増えて名産地として広く知れ渡ったとされています。このように昔から寺院でも大切にあつかわれ、伝統文化や芸事にも欠かせない京扇子。今回は数多い京扇子の専門店のなかでも特に名高く、私のいちおしでもある2つの老舗をご紹介します。

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300年の歴史のなかに新しい風が吹く、白竹堂

白竹堂(はくちくどう)は1718年、西本願寺前に寺院用扇子のお店を開業したのがはじまりで、本店は10年ほど前から現在の地で営業されています。伝統的な意匠の扇子から、令和世代の感性にフィットするコラボ商品まで幅広いラインナップが特徴です。

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昭和初期に女性誌「それいゆ」を創刊し、イラストやファッションなど女性のカリスマ的存在であった中原淳一さんの扇子はカワイイ文化を体現しています。銘仙などレトロな着物に合わせると一歩抜き出た"カワイイ"が演出できそうです。なかでも、はじめて扇子に挑戦する女性におすすめなのが、この貝のような丸い形をしたシェル扇子。私もアルパカのワンポイント刺繍がされたシェル扇子を愛用しています。車内など少しせまい場所でも仰ぎやすい形とサイズ感が気に入っています。うっかり角が肌にあたって痛い思いをすることがありません。紙ではなく生地扇で、どれも色やデザインが可愛くて選ぶのにずいぶん迷いました。

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白竹堂ではこういったコラボ商品も多く扱われており、特に扇子のイメージが覆るような男性向けの扇子が充実しています。

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たとえば、ファッション誌「LEON」とのコラボ、ウルトラマンの透かし彫りが入った扇子、京都紋付が真っ黒に染め上げたエアバック京扇子や、岡山デニムを用いた扇子など、趣向を凝らした商品がならび目移りしそうです。

別室では、京都生まれの画家であり日本最後の文人と呼ばれた富岡鉄斎の扇面画などと共に、白竹堂の社長と親交のあった故・忌野清志郎さんデザイン原画も展示されていて、部屋の利用がないときは鑑賞できます。

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こちらはコロナ禍で生まれた「お口元扇子」。会食の際マスクをつけたり外したりするのは無粋になりがち。こちらのスリムな扇子をテーブルに置いておけば、食事の途中でもさっと口元を隠して会話ができる優れモノ。屋号入りなので、まとまったお土産としても人気です。そして、旅の思い出に絵付け体験もおすすめです。専用の和紙に好きな絵を描いたものを職人さんが扇子に仕上げて、1ヶ月ほどで自宅に届きます。

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2〜4人の小グループで京都に来られる方は、伝統的なお座敷遊び「投扇興(とうせんきょう)」体験はいかがでしょう。蝶と呼ばれる的をめがけて扇子を投げ、その位置や形で点数を競うお遊びで、対戦に使用した扇子はおみやげに持ち帰れます。いずれの体験も予約制です。希少となりつつある白檀の扇子も見せていただきました。とても懐かしい香りで母のことを思い出しました。

扇子の製造工程は88ほどに分かれていて、それらのすべてを京都近郊で仕上げた扇子が京扇子と認定されます。京扇子にはタグが付いておりそれで見分けることができます。白竹堂の扇子は、親骨(いちばん外側の骨)の色やデザインが扇面に合わせて細かく変えられていて見ていて飽きません。また、店頭の一角には扇子とおそろいの和雑貨も揃っているので気軽にのぞいてみてください。
白竹堂

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誠実に受け継がれる伝統と技、宮脇賣扇庵

1823年創業の宮脇賣扇庵(みやわきばいせんあん)、風格ある店構えは長い歴史を物語っています。実は白竹堂と宮脇賣扇庵はどちらも、富岡鉄斎から命名された屋号なのです。

通りから見える畳の間に優美な扇子が並べられ人々を店内へと誘います。広い店内には雅やかな扇子が悠然とならび、大切に受け継がれてきた調度品と相まってまるで美術館の展示物のような印象を受けます。

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一番の見どころは、飾扇や舞扇などを陳列する2階の天井画です。1902年に京都画壇の富岡鉄斎、竹内栖鳳、神坂雪佳ら48画伯によって描かれた扇の絵柄をあしらった天井画で、真下に置かれた鏡のテーブル越しにのぞくのも粋です。そのほかにも江戸画壇12画伯の季節絵扇面画や、代々伝わるコレクションが展示されている2階も一見の価値があります。

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商品は季節の花や紋様など古典的な意匠が豊富にそろい、常連らしい方も自由に扇子を開いてはお気に入りの一品を探していらっしゃいました。

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こちらのレザーの扇子は、結婚する前の夫にプレゼントして贈り物のセンスを褒められました。シンプルな扇子は、扇骨のデザインや質感、手仕事の細やかさが際立ちます。普段着に合わせやすいカジュアルな素材の扇子もあり、リネン生地のポケット扇は私が初めて買った扇子です。漆喰を塗布した扇子は見た目や使い勝手はほかの扇子と変わりませんが、漆喰には抗ウィルス・抗菌効果があり、コロナ禍で注目されています。年代問わないデザインが豊富に揃っています。また、切手を貼ると定形外郵便として郵送できる扇子もあるので、旅の途中に京都から投函してみてはいかがでしょうか。

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今回、その意外性に惹かれたのはこちらのディズニーコラボ。オールドミニーは木版画で、シルクスクリーンを使い印刷されており、雑貨屋さんのキャラクター扇子とは一線を画していて、大人にこそ持って欲しい一品です。
宮脇賣扇庵

伝統と信頼を堅固に守りつづける宮脇賣扇庵が今年1月、新業態として隣にオープンされたのは「バナナとイエロう」。本店が掲げる看板のイメージを裏切らないよう徹底的に峻別しながら、革新的な試みとして立ち上げたファッションブランドです。

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なにしろ暖簾は蛍光イエローのビニールカーテンで、Tシャツやバッグとともにコーディネイトの一部としての扇子がアーティスティックに並べられています。

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東京生まれの画家、大竹伸朗さんの作品や、ユニークな仕掛けのある扇子は、もはや涼をとるためだけの物ではありません。ファッションアイテムとして、オシャレが成熟した大人の男性に似合うと思います。
バナナとイエロう

このように両店舗ともに新しい切り口で商品開発を行い新製品を展開されるのは、次世代への扇子文化の継承が狙いでもあります。京扇子は実用的な使い方はもちろん、アートになったり、お祝いや記念の品になったり、かけがえのない思い出にもなります。そのうえ、ハンディファンのように電池切れの心配がなく、閉じると1本の手軽さです。夏の日に、洋服とコーディネイトした扇子をさっと開く仕草なんて粋ではありませんか。
今回ご紹介した白竹堂と宮脇賣扇庵は目と鼻の先にあります。それぞれの特徴を探しながら選ぶ楽しさを味わえるので、ぜひ両方のお店に足を運んでお気に入りの扇子を見つけてみて下さい。

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