繊細な手仕事から生まれるアートクラフト 京うちわの老舗でやわらかな風を感じる

繊細な手仕事から生まれるアートクラフト 京うちわの老舗でやわらかな風を感じる

冨岡 ちづこ

21.08.21

冨岡 ちづこ

町家のガラス戸越しに見える、花火が開いたように並ぶうちわ。
錦市場のほど近く、阿以波(あいば)は1689年創業の、国内でも希少な京うちわ専門店です。京都では扇子は馴染みが深いですが、京うちわもまた京都の豊かな風土と文化によって育まれてきた伝統的工芸品です。
今回は京うちわの老舗をご紹介します。

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うちわが中国から朝鮮半島を経て日本にやってきたのは6~7世紀とされています。京都のうちわは多数の竹骨をもつ朝鮮団扇の流れを汲んでいて、江戸時代になって御所に出入りしていた土佐派や狩野派の絵師によって彩色されたものが、いまの繊細で優美な京うちわに繋がっています。

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築200年ほどの町家の戸を引いて中に入ると目に飛び込んでくるのは、竹骨があらわになった大きなうちわ。「透かしうちわ」です。扇(あお)がないうちわの存在を阿以波で初めて知りました。
うちわは"魔を討ちはらう"縁起物として、阿以波では創業当初から贈答用や嫁入り道具としての飾りうちわを作りつづけてきました。
また、季節の花や行事を意匠とした飾りうちわは、目で涼を取る夏の贈りものとして重宝されてきたのです。今でも夏になると、イベントやお店のノベルティーでうちわが配布されるのは、そういった文化的背景が習慣として残っていると考えると合点がいきますよね。

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京うちわは厳選された材料を使い、すべてのパーツが伝統的な技法により1点ずつ手作りされています。京うちわは骨ならびが自慢です。数十本もの竹骨が均等に広がっているのが紙越しでもよくわかり、透かしうちわになると切り絵細工が鮮やかに映えます。
この竹骨には、丹波の日当たりの良い平地で4年育てたのち冬のあいだに切った真竹が最も適していますが、近年は栽培環境や流通事情が変化するなか、確保することに奔走されています。

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そして柄の部分は、あとから差し込む「差し柄」が京うちわの特徴的な構造で、栂(とが)、杉、竹を作品によって合わせています。栂の柄はこれまで三代続けて作られていた工房の職人が退かれたのち、仕上がりにこだわるあまり自家生産されるようになりました。
阿以波のうちわは実際に手に持つと、指ざわりが優しく滑らかで、細身なのにしっくりと持ちやすいことに驚きます。竹の柄は、木賊で磨き、猪の牙で艶だしをするものもあるそうです。
和紙職人や、描き絵の絵師も工程に欠かせない存在で、さらには屏風や掛け軸に仕立てる表具師など、京うちわはさまざまな伝統工芸との共同作品。真摯なものづくりの姿勢で330年あまり受け継がれてきた阿以波のクオリティを守り続けています。

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阿以波にもありました、受け継がれてきた伝統工芸の新たな表現方法を形にした、京都伝統工芸14社とウォルト・ディズニーのコラボにより制作されたシリーズです。
こちらは、iPadと一緒に持ち歩きやすいサイズから「モバイル型」という名称がついていますが、想像よりもしっかり涼しい風が来ます。やわらかな色合いとレトロな雰囲気のプーさんが好相性ですよね。

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こちらの美しいコオロギはなんと螺鈿細工!
他にも、数々の世界的なハイブランドや、京縫い、鹿の子絞りといった京都の伝統工芸ともコラボされています。

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また伝統的な木版うちわでありながら、男性ファッション誌に取り上げられたことで大人気商品になったのは、こちらの「稲妻」。裏表ともにカッコイイです。
庭先やバルコニーなど夏のおうち時間にはうちわが活躍するし、浴衣姿にはやっぱりうちわが合います。
お客さんのなかにうちわ好きの男子大学生がいらっしゃって、持ち歩いているうちわがボロボロになると新調しに来てくれると、気さくな女将さんが嬉しそうにお話ししてくださいました。
こんな風にカジュアルに持てるのもうちわの魅力のひとつです。ただし、木版は色移りすることがあるので、持ち歩く際は水濡れや汗に気をつけてくださいね。

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さて、夏の風物詩であるうちわですが、阿以波では紅葉や梅、兜など季節がわりで店内のショーケースが彩られるので、それぞれの四季の風情も感じてみてください

京うちわ 阿以波

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